憧れの北鎌尾根へ
Mちゃんが昨年北鎌尾根をヤリ遂げたあとに一言。「Y崎さん、来年はS子ちゃんを連れてってあげたら?」師匠は2年前に北鎌を踏破した際に4キロも痩せて、あんなとこ2度と行かないと言い切っていましたが、「よし、来年の8月上旬空けておけ。天気の良い日に北鎌尾根に連れていってやる」とその気になってくださいました。Mちゃんのお口添えに感謝感激です。
そして今年の7月、師匠から日にちの無い計画書をいただきました。あとは天気予報と睨めっこ。幸いにも8/1から数日は☀️と☁️マークが並び、雨は降らない模様です。7/29、日にちの入った計画書が届き、全身に妙な力が入って、いても立っても居られなくなりました。スーパーを回って行動食を買い漁り、気持ちを落ち着かせようとしました。
ーとうとう私の北鎌尾根が始まるー
【日程&コース】
7/31 20:00松戸=0:00沢渡バスターミナル(車中泊)
8/1 沢渡バスターミナル7:45=8:22上高地ー10:38横尾11:08ー12:21槍沢ロッジ12:45ー13:16ババ平テント場(泊)
8/2 ババ平テント場4:48ー6:13水俣乗越6:27ー8:38北鎌沢出合9:20ー12:40北鎌のコル13:00ー13:40幕営適地(泊)
8/3 幕営適地4:46ー6:50独標7:15ー13:03槍ヶ岳13:20ー14:22殺生小屋(泊)
8/4 殺生小屋4:21ー6:13ババ平テント場ー8:00横尾8:37ー10:21明神10:34ー11:20岳沢登山口ー11:38上高地
初日
沢渡から7時にはバスに乗る予定でしたが、乗り場にはすでに長蛇の列。1時間以上並んでようやく乗車でき、上高地へ。横尾の関所では行き先を問われ、『北鎌』と答えると裏に連れていかれて、装備の確認と注意喚起を受けました。

登山届を提出
槍沢ロッジで昼食にカレーを食べ、生ビールを飲みたい衝動を抑えババ平へ。ここまで正味4時間しか歩いていないので、その後の厳しい行程を思うと、もう少し先まで行きたい気持ちになりましたが、今日はここまで。ババ平には臨時の売店が出ており、各種アルコールや菓子、カップラーメンが売っていました。トイレも水場もあるし、のんびり出来そうです。テントをたててビールで乾杯。

槍沢沿い河原にも多くのテントが張られてました
残念ながら売店ビールは常温。川で冷やせば良かったと、あとから気づきましたが、先に気づいていたとて、冷えるまで待てなかったでしょう(笑) 早々に就寝。
二日目
3時起床。散々削って軽量化をはかった装備ですが、更に不要なものはデポして行こうとY崎さんが言います。それ程厳しい道のりなのだと、あらためて覚悟を決めました。2人で2個ずつ持ってきたモバイルバッテリーを1つデポ。ストック、予備の着替え、多めの行動食、防寒用のダウンジャケットはシュラフ背負ってるから要らないね。これらをまとめて岩場に隠して出発しました。
大曲を越えググッと400m程高度を上げると、水俣乗越に到着です。中々の急登です。

水俣乗越(みずまたと読みます)標高2480m

水俣乗越から槍ヶ岳に続く東鎌尾根
さて、ここからは登山道の無いバリエーション、標識の向こう側の緑のロープをまたいで、急なガレ場ザレ場をひたすら下ります。ちょっとでも気を抜くと転びます。

枯れた天上沢。こんなところを降りてきました
斜度が緩くなり、左から間ノ沢が入って今度はゴーロ帯。

意外と広い河原です
まだ早朝だと言うのに日が射すと暑く、遮るものは何もないし、岩からの照り返しもキツい。本日ここまでルートはほぼ日陰。日が昇る前の涼しいうちに、この難所を通過できてよかったです。昨日無理をしていたら熱中症になるところでした。Y崎さんの計算された計画に感謝です。650m程くだり、北鎌沢の出合(標高1827m)に到着。腹ごしらえをします。

北鎌沢。すぐに二股があり右俣を行きます
北鎌沢出合から北鎌コル(標高2470m)まで今度は登り返し。大休憩の後、重い腰をあげ北鎌沢を登り始めたのに、忘れ物に気づいて慌てて取りに戻りました。沢はもっと枯れ沢だと思っていたら、意外と普通に沢登りでした。


高度が上がると水流は細くなり、その後水は岩の下に潜ってしまいます。流れがあるうちにと、標高2080mで4リットル取水。
遡行中は日差しが強く暑くて、重たい荷物を背負っての急登は体力を消耗しました。頭から水をかぶり、びしょびしょの冷感タオルを首に巻き身体を冷やしました。思った以上に水も飲んでしまい、今夜と明朝の調理分、明日も暑かったら・・・と考えるともう少し水に余裕が欲しくなり、2350m辺りで取水できそうなところを見つけて、大喜びでもう2リットル取水しました。最後の草付きの詰めは踏み跡がいくつかあり、危うく間違えそうになりましたが、無事に北鎌コルへ到着。

ぐったりお疲れの師匠

コルにあるプレート
もうここからは前進あるのみ、引き返すことは出来ません。北鎌尾根は一方通行、エスケープルートもありません。槍ヶ岳の山頂に自分の足で立つか、ヘリで救助されるか。先日読んだ5人パーティの記事が頭をよぎりました。
北鎌コルは虫が多いので、休憩したのち少し進んでビバーク地を探し、標高2600mを今夜の宿としました。


追加の取水で心置きなく水割りを楽しむ師匠
三日目 いよいよ勝負の日
今日も3時起床。まだ食欲も湧かないお腹に食べ物を流し込み、そそくさとテントを畳んで出発です。まず目指すはP10の独標。今はP7とP8のあいだだから・・・。そうなんです。北鎌尾根は湯股から入るのがクラッシックルート。千天出合から北鎌平までの間のピークに1〜15までのナンバーが振られているそうなんです。今そのルートは吊り橋も壊れ、荒れてしまっているようですが、猛者のブログは時折上がっています。現在は北鎌沢から尾根に入るルートが一般的で、そうなると北鎌尾根をちょうど半分くらいから歩くことになります。

暫くは樹林帯の踏み跡が明瞭な道
周囲はガスがかかり、思い描いていた景色はありません。数日前はもっといい予報だったのにちょっぴり残念。しかし憧れていた北鎌尾根で一晩を過ごし、槍に向かう夢のルートを一歩一歩進める喜びは筆舌に尽くせません。

ガスの合間に見える硫黄尾根、遠く水晶や鷲羽岳を見つけ、二人で喜びました
暫くするとトラバースの為のフィックスロープが見えてきました。

独標の取り付き

2本目のロープまで少し歩きます

2本目のロープの場所が有名な逆コ
逆コを過ぎて直登すると独標ピークに出ました。2年前のY崎さんのブログの独標写真は今ひとつで、どこで撮ったかわからないような写真でしたが、昨年のMちゃんの写真は槍をバックに木彫りのプレートがしっかり握られ最高のショットだったので、私も・・・とベストショットを狙いましたがガスに阻まれました。


それでも独標での写真は、私が北鎌尾根を歩いた証。一生の宝物です。この木彫りのプレートは、一昨年9月に個人の善意によって設置されたものらしく、賛否両論あるようですが、私はこれを手に写真が残せて嬉しかったです。
さてここからはルートが不明瞭な岩稜帯。どこを通るかはパーティ次第。行き止まりとなる巻道の踏み跡もいくつも存在し、稜線も両手両足を駆使し登りますが、弱点をついていかなければ途中で行き詰まります。行き詰まってしまったらクライムダウンし、ルートを修正しなければならず、そういう意味ではクライミングの技術も重要です。また多くのバリエーションを経験し、岩を見定める力がないと、北鎌尾根は難しいと感じました。

事件が起きたのはP12の手前でした。懸垂ポイントを見落としてルートの右脇にあった岩峰を超えるものと勘違いし、脇道に入り込んでしまいました。先を行っていたY崎さんが「ここは無理だ」と引き返してきて「そこら辺からのぼれない?」と。私が登れそうな場所から偵察に・・・と2mほど登りかけて、左足に体重を載せたその瞬間、足元の岩が土台の土ごと崩落したのです。人の頭ほどの岩は私の右大腿部を直撃し、足場を失った私は転落しました。落ちた私を側にいたY崎さんが、左手1本でキャッチしてくれ難を逃れました。師匠は本当に頼もしい〜。高さは大した事はなかったのですが、そのまま落ちていたら、ガレ場の斜面で身体の前面が大根おろしになるところでした。
北鎌の岩は脆い!!掴む岩は揺らしながら抜けないか注意を払っていましたが、まさかあんな大きなスタンスが崩れ落ちるとは・・・。太腿には擦過傷と青タンができましたが、かすり傷程度で済んで本当に良かったです。
引き返して懸垂ポイントを見つけた時にはホッとしました。そこではロープを出さなくてもクライムダウンできたので、懸垂はしませんでしたが・・・。次のP13白ザレ峰とP15では懸垂ポイントでロープを出し懸垂下降。

本当にザレザレなP13白ザレ峰を登り

無理に降りずにウロウロすると懸垂ポイントが

懸垂下降した方が断然安全

P15の懸垂ポイント

クライムダウンでもいけそうだがせっかくあるロープで安全に
P15の『諸君頑張』プレートを見つけた時には、嬉しくなりました。

残るはラスボス大槍だけ
北鎌平に着くとようやくガスが切れはじめ、カニのハサミを目指してガレ場を進みます。

カニのハサミの手前から右にトラバースする薄い踏み跡をたどりながら、最後の難関2つのチムニーを探します。
おっと😳ここで、槍に住む雷鳥さんに出会いました。

姿を見せてくれてありがとう
少し上がるともう1羽。つがいだったのでしょうか、嬉しいサプライズに思わず顔がほころびます。
実工JAC看板を見つけ、このチムニーだねと1つ目のチムニーを登り、その後すぐに2本目のチムニーを見つけました。このチムニーを上り詰めたところが北鎌尾根のゴール、穂先の祠の裏に出るはずです。2本目のチムニーの左側にはクラックが走っており、お助けスリングがかかっていました。『あーこれ、お助けに騙されちゃいけないんだ。こっちを登らないと』Y崎さんが先に登り、無事に祠に出たようで、登山客と談笑する声が聞こえます。『S子大丈夫か?右に来い、もう直ぐだ』
登った先に見えたのは、師匠の笑顔と沢山の登山客の拍手でした。

私達の登頂を祝福してくださる皆様に、胸がジーンと熱くなり、目から汗がこぼれました。記念写真をとってもらい、少しの間登山客とお話ししましたが、長居は無用と早々に下山。
槍ヶ岳山荘は観光地のように混み合い、色々な言語が飛び交っていました。お腹が空いていたのに、食堂は売り切れ続出で食事もままならず、殺生小屋まで降りることにしました。
『今夜はババ平まで降りれたら、明日の帰りが楽だよね』と話していましたが、もう食べるものも持ち合わせておらず、午後からの雨予報に心折れて、テントじゃなくて殺生小屋に泊まりたいと師匠にお願いしました。小屋には空きがあって、当日割り増し料金も取られず、宿泊できることになりラッキーでした。何しろ静かで落ち着き、槍ヶ岳山荘の喧騒が嘘のようです。お部屋に入る前に食堂で祝杯と遅いランチ。


今まで食べた中で、一番美味しい牛丼でした。
最終日
今日は登山道を下山するのみですが、3時20分起床、4時20分には小屋をあとにしました。なんとお空はピーカン☀️

槍ヶ岳と殺生小屋

雲海に浮かんでいるのは常念かな?
『1日ずれてたらよかったな』とY崎さんは言ったけど、昨日は涼しく体力の消耗も抑えられたし、ガスのおかげで高度感をさして感じることもなく、良かったこともありました。
途中デポした荷物を拾い、横尾で休憩。『ホント上高地から横尾間のアプローチは要らない・・・バスを通せ〜』毎回師匠は叫んでいます。まあ気持ちもわかりますが・・・今日は下山だけ。こんなに体力に余裕がある状態で、上高地まで歩くことも中々ありません。
『明神から川の向こうの遊歩道を歩いてみたい』と言うと『お前なーヘルメット持ってデカザック背負った奴なんて歩いてないぞお』と文句を言いながら、付き合ってくれました。

川に沿って木道が敷かれた遊歩道はとても素敵な道でした。

涸沢登山口を通り・・・私はピンと来なかったのですが、『去年明神岳行った時に通ったろ』と言われ、ハッと記憶が蘇ります。あの時もバリエーションを踏破し、達成感でいっぱいでした。色々な経験を積ませていただき、師匠には感謝しかありません。
そしていつもは眺めていただけの、河童橋のあっち側を垣間見ることができ、写真も撮れて私は大満足でした。
今回私が、憧れの北鎌尾根に挑戦できたのは、絶大な信頼を寄せている師匠Y崎さんのおかげです。ルートの経験とそのルーファイ力で、常に前を歩き、私を槍の穂先まで導いてくれました。また無理のない行程で疲労を溜め込むこともなく、集中力も途切れずに歩き通す事ができました。おかげさまで天上沢の激下りも、北鎌沢の沢登りも、北鎌尾根の長い岩稜歩きも終始楽しむ事ができました。Y崎さん、今回も本当にありがとうございました。
次に北鎌尾根を目指そうとしている仲間に、少しでも役に立てばと長いブログになってしまいました。最後までお読みいただきありがとうございました。

